Take hold of a lonely heart (5)




(・・・寒い・・・。ここ・・・、どこだ・・・?)
 高耶はあまりの寒さにゆっくりと意識を取り戻した。
よほど寒かったのか、丸まるようにして横たわっている。それに何故だか身体が痛い。少しでも身体を動かすと軋むような痛みが全身に走る。どこにいるのかと眼を開けてみたが、辺りは真っ暗で何も見えない。頭を動かすのも辛いので、高耶は眼だけ動かして周囲を見たが何も見えない。どうした事か、自分の体さえ見えないのだ。どこにいるのかも判らず高耶はまさか、まだあの場所から戻って来ていないのかと内心焦った。体が言う事を聞かないので状況を把握するには五感のうち、使える状態の聴覚と嗅覚、そして感覚だけで探らなければならなかった。
 高耶はまず、耳を澄ましてみた。先程の場所は音が全くしなかったが、ここでは何か聞こえるようだ。何の音か思い出しながら聞いている。
(あれは・・・、車か?他にも何か聞こえる・・・。って事は俺、戻って来てるのか?!)
 あまりの嬉しさに飛び起きようとしたが、全身に走った痛みに呻きながら撃沈した。
(・・って〜!!でも戻って来れたんだ。誰か、見つけてくれるかも・・・!)
 そう思い高耶は誰か近くに人がいないか気配を探ったが、今の所は誰もいないようだ。
(それにさっきから・・・食いもんの匂いがするんだけどな・・・。どこだ?)
 近くに何かあるのかと、痛む身体に鞭打って右手を伸ばし、辺りを探る。カサカサ・・・と、触れると音がする地面に手を這わせていくと指先に何かが触れた。柔らかい感触が伝わってくる。
(ん・・・、何だろ?これ・・タオルか?)
 指先に少し触れるだけなのでよく判らなかったが、運良く爪に引っ掛ったのでそのまま引っ張ってみた。
(あれ?タオルにしちゃ重いしデカそうだな・・・。タオルケットか?ラッキー!)
 身体が冷えるとそれだけ体力を消耗してしまう。高耶は寝返りを打つようにしてタオルケットを引っ張り、包まった。寒い事に変わりはなかったが、先ほどよりはずっとマシだ。
(とりあえず、ここでじっとしてるしかないか・・・)
 暫くすると身体の痛みも和らぐだろうと思い、高耶は眼を閉じた。戻って来れたという感動と寒さが少し和らいだせいか睡魔が襲ってきたのだ。
高耶はそのまま睡魔に身を任せ、暫しの眠りについた。



(う・・・ん・・・?何だ・・・・・?)
 どれくらい眠っていただろうか・・・。
 高耶は近づいてきた車の音で眼を覚ました。車はどうやらすぐ近くに停まったようだ。ドアを開ける音がして、僅かではあるが人の話し声が聞こえる。
(助かった!早く見つけてもらわねぇと・・・)
 高耶はタオルケットに包まったまま、身体をゆっくりと起こした。先ほどまでの痛みはだいぶ和らいだようではあったが、まだ思うようにはいかないようだ。痛みが走らない程度に身を起こし、とりあえず四つん這いになった。
 しかし、身体を動かすのに思ったより時間がかかってしまい、車から降りた人物はどこかへ走り去って行ってしまった。
(くっそーっ!何でだよっ!誰か気付いてくれよ!!)
 焦りと苛立ちとがない混ぜになる。怒鳴りたい衝動に駆られたが、高耶は車のアイドリング音が聞こえる事に気付いた。という事は去って行った人物がまた帰ってくる可能性があるという事だ。それに誰かが車から降りたのだろうか。ドアの開閉音がした。
(まだ誰かいる・・・っ!お〜い!)
 高耶は助けを求めようと声を出した。大声を出したつもりだが喉から出る声は弱弱しい声しか出ない。何度も叫んではみたが届いている気配はない。
(ちっきしょーっ!どうなってんだよっ!)
 あまりの悔しさに涙が滲む。どこに閉じ込められているかも判らず、声も届かない。ここから出る事も出来ずに、これでどうやって最愛の人物を探せというのだろうか。
 形振り構わず叫んでしまおうと思った時、また一台の車が停まるのがわかった。
(ん?また誰か来たのか?)
 停まった車から人が出てくるのが判る。2人だろうか?何やら話しながら此方に近づいてくる。
(やった!今度こそ助かるかも・・・・・!)
 高耶は注意深く2人の会話を聞き、動きを探った。



「はぁ〜。後何軒回るんだっけ?」
「おいおい、まだ10軒回っただけだろうが。まだ20軒以上残っているんだぞ?」
「んな事言ったってさぁ。せっかくの休み前だってのに遊べないんだぜ?」
「仕方ねぇだろ?夜勤選んだの、お前なんだから」
「そりゃそうだけど・・・」
 仕事の愚痴を言いながら2人は高耶のいる方へ近づいてきた。しかし、その音はやたらと大きく聞こえる。相当近くにいるのだろうか。高耶は声を出そうとした・・・その時・・・。



ボン!  ドサッ!  ベリッ! ・・・・・

( ?! )

ボスッ! ドサドサッ! バサッ!・・・・



 突然高耶の頭上から凄い音が聞こえてきて、それに合わせて地震のように揺れ出した。2人は高耶の上にいるようだ。凄い音と振動と一緒に声が上から聞こえる。
(な・・・なんだっ?!)
 何をしているのかと思って真っ暗な天井を見上げていると、突然地面が宙に浮くように揺れ、斜めになった。高耶はそのままゴロゴロと転げ、壁らしきものにぶつかった。
「いてっ!!」
 思ったほどの衝撃はなかったが、不意打ちを喰らったせいか頭をぶつけてしまい、高耶は思わず呻いてしまう。すぐ上ではまだ大きな音が延々と続いている。それに合わせてまた2人の会話が耳に届いた。
「なぁ、今何か聞こえなかったか?」
「はぁ?何も聞こえなかったぞ」
「そうかぁ?・・・変だなぁ・・・」
 自分の声が聞こえたのかと思った高耶は助けを求め叫ぼうとした。が、その途端、また地面が大きく揺れ出し、斜めになった地面を転がり反対側と思われる壁に激突した。
「いって〜っ!もう、何なんだよ?!」
 おもちゃのように転がされる事がいい加減頭にきた高耶はとうとう怒鳴った。
「おい・・・やっぱ何か聞こえたぞ?」
「はぁ?・・・どこで」
「この辺だと思うけど・・・」
(?! 俺の声が聞こえてるのか?)
 タイミング的にも間違いはなさそうだった。高耶は今しかないと思い、必死に叫び出した。
「おーい!ここだよ!誰か助けてくれよー!」
「ほら・・・聞こえただろ?」
「あぁ、確かにいるな」
(やった!届いてる!)
 これを逃せばきっと誰も気付いてはくれないだろう。そう思いながら高耶は声を張り上げる。
「ここだよ!近くにいんだろ?助けてくれ!!」
 大声を出しているつもりだが、実際には小さな声しか出ていない。それでも高耶は必死に叫び続けた。すると今度は震度10はあろうかという揺れが高耶を襲った。
「わ〜〜〜っ!!」
 掴まる所もなく、高耶の身体は振動に合わせボールのように跳ねた。
「おい。これじゃないか?」
「そうみたいだな。開けてみるか・・・」
 そう聞こえた途端天井がゆっくりと開き、うっすらと明かりが差し込んだ。
 斜めになったままの地面の上で蹲っていた高耶がそっと見上げると・・・・・・。



そこには、今まで見た事のないものがあった。








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