俺って言え! (中編)






 3時間ほど過ぎ、千秋が借りてきたビデオもそろそろ半分見終わるかという辺りで、あまりにも落ち着きのない高耶に千秋はにんまりと笑った。
(やっぱまだガキだなぁ、大将)
 なんとか平然としてるフリをしているのだが、それが隠せていない所が可笑しくて千秋は吹き出しそうになる。
 最初のうちは一応画面を見てはいたのだが、だんだんその時間が短くなり、慣れないビールを3缶開けたり、つまみの菓子を一心不乱に食べ続けたり、時には真っ赤になって俯いたりと、誰が見てもおかしな行動を取っているのだが、当の本人はそれで誤魔化せていると思っているようである。
 こうなると元来茶化すのが好きな千秋は黙っていられない。
 丁度ビデオも終わったので、次のビデオをセットしながら今もソワソワとしている高耶を振り返った。
「ん?どうした、景虎ぁ。・・・・もしかしてお前、溜まってんのか?」
「っ!!・・・んな訳ねーだろっ!俺は眠いんだ、勝手に一人で見てろっ!」
 高耶は真っ赤になったかと思うとムッとした表情になり、テレビに背を向けソファに勢いよく寝転んだ。
そんな高耶を見て、ますますおちょくりたくなってきた千秋はニヤリと笑う。
「なんだ、図星か?」
「うるせー!音でかいんだよ、少し小さくしろっ!」
 身を起こして怒鳴ったかと思うと、丁度次のビデオが始まったのが見えたので、高耶は慌ててソファに寝転んだ。
【千秋の野郎っ・・・・、解っててやってやがる!】
 高耶はなんとか寝ようとしてみたものの、耳から入る音が気になって眠れない。
 直江はここ最近、実家や実兄の仕事が忙しくてゆっくり家にいた事がなく、今回も実兄の仕事で3日間の出張だったのだ。
それにその前は高耶が試験中であったのでこの2ヶ月近く、夜の方はすっかり御無沙汰となっていた。
 高耶とて健康な一般男子なので、もちろん普通の男女の営みには興味がある。
見たくない訳ではないのだが、見ているとどうしても男優があの男に見えて仕方ないのだ。
「直江ならこんな時こうするな」とか、「直江はもっと上手いぞ」とか今まで見た(経験した)事のないものだと「直江がこうしたら自分はどうなるんだろう?」など色々想像してしまい、終いには男優の台詞が直江の声に聞こえてきてまともに見れなくなってしまう。
 今も背を向けていても音だけは聞こえてしまうので、余計にあれこれ想像してしまう。
 高耶は抱えていたクッションをギュッと抱き締め、何とか耐えようとしていた。



 結局6時間に渡るアダルトビデオの上映会となり、最後まで寝たフリを通した高耶にとっては拷問の様な時間となった。
 千秋は散々ビールを飲んで満足したのか、全部見終わると大きく伸びをしながらまだ背を向けて寝ている高耶に声を掛ける。
「さーてと。終わった、終わった!んじゃ俺は帰るぞ、景虎」
「・・・・・・・・・・」
 案の定返事をしない高耶に意味ありげに笑うと、千秋はソファから立ち上がる。
「まぁ、後で直江とゆっくり見るんだな」
【・・・な、何ぃっ?!】
(おもしれぇ〜!やっぱコイツからかうのは楽しいや)
 ビクッと身体を揺らした高耶を見て、千秋は笑いを堪える。
「あ、このビデオ、そこのビデオ屋でレンタルしたやつだから。後よろしく〜!」
 見ていないのを知りつつ、ヒラヒラと手を振って千秋は玄関へと向かった。
「お、おいっ!ちょっと待てって・・・・千秋ぃっ!!」
 高耶は慌てて飛び起き、玄関に向かったが、そこにはもう千秋の姿はなかった。
「あ・・・あの野郎っ!覚えてろよ、千秋ぃぃぃ〜っ!!」
ワナワナと震えながら怒鳴った声は当然、千秋には届かなかった・・・・・・。








「ふぅ。・・・ったく子守は疲れるぜ」
 エレベーターを降りた千秋は肩が凝ったと言わんばかりに肩を回すと、煙草に火を付けながら呟いた。
「帰って来た時の直江の顔が眼に浮かぶぜ」
 高耶の百面相を思い出し、千秋は笑いを堪えながら愛車のレパードに乗りこみエンジンをかけた。
「せいぜい頑張れよ、大将」
 マンションの最上階に向かい、ヒラヒラと手を振って千秋は車を出した。



「どうしよう、これ・・・・」
 そんな千秋の作戦とは露知らず、高耶はビデオの山を前に途方に暮れていた。
 大量のエロビデオを返しに行く勇気ははっきり言って、ない。
「ったく、どんな顔してこんなにも借りて来やがったんだ、あの野郎!」
 とにかく、直江が帰って来る前になんとか処理しようと考えたが、良い案が浮かばない。
ふと時計を見ると、もう直江が帰って来る予定の時間だった。
 夕飯の支度は千秋が来る前に済ませてあったので問題はない。風呂もすぐに湯は張れる。



 問題は・・・・・・



【俺・・・、か】
 時間がない中、高耶は焦りながらも何かいい方法はないかと必死に考えた。
【何かいい方法は・・・・・・、そうだ!】
 何を思い付いたのか、高耶はポンッと手を叩くと、ビデオもそのままに部屋から出て行ってしまった ――



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