Sweet singing voice
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ここは小さなアパートの一室。
一人の男が銜え煙草でぼんやりとテレビを見ていたが、丁度番組が終ったところで壁に掛かっている時計に目をやる。
「さて・・・と、そろそろかな?」
ニヤリと笑った千秋は携帯を手に取った。慣れた手つきで番号を押す。
「あ、もしもし?俺だけど・・・。今晩空いてるか?・・・」
新年早々、怪しい動きを始めた長秀であった。
一方こちらはウォーターフロントの高級マンション。
もう夕方だというのに未だにベッドの住人なるものが一人・・・。
漆黒の髪の青年は布団に包まり静かな寝息をたてている。
そこに男が一人入ってきた。眠りを邪魔する事なく静かに入ってきた男はベッドの端に腰を下ろし、穏やかな寝顔を見ながら優しく髪を梳いた。
「う・・ん・・・・」
「高耶さん、そろそろ起きてください」
手の感触で覚醒し始めた高耶の横に直江は添い寝するようにベッドに上半身を預け、耳元で囁いた。
「ん・・・今、何時・・?」
「もう夕方ですよ。まさか新年早々一日ベッドの上にいるつもりですか?」
「だって・・・昨日は年越しパーティーだとか言ってみんなでドンチャン騒ぎで・・・なんとか初詣は行けたけどぉ、その後はお前が・・・」
今朝の出来事を思い出したのか、途中で言葉を切った高耶に直江はちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
「私が・・・何かしましたか?」
「うっ・・・それは・・・そのぉ、お前が・・・」
「私が・・・?」
布団に埋もれるようにして赤くなった顔を隠す高耶に、嗜虐心を煽られた直江はますます高耶を苛めるように問い詰めた。
「私が・・・どうかしましたか?」
「・・・うるせぇっ!」
我慢出来なくなった高耶は直江に向かって枕を投げつけたが難なくかわされキャッチされてしまった。
「おっと・・・酷いですねぇ、高耶さん。・・・怒ったんですか?」
「・・・・・・」
むくれた顔をもう一つの枕に押し当て、頭からすっぽりと布団を被ってしまった高耶に直江は益々苦笑する。
(全く・・・可愛い人だ・・・)
しかし、このまま布団の中から出てこないのも困りものである。
普段なら嬉しい直江であるがこの後に予定がある以上は何とか高耶を布団から出さなければならない。
直江は高耶に気付かれない程度の小さな溜息をついた。
(美味しい状況ではあるが仕方ないな・・・)
「高耶さん・・・そんなに拗ねないで・・・」
直江は優しく語りかけながら布団の中に手を入れ、高耶の髪にそっと触れた。
ピクッ・・・と高耶が反応したのを掌で感じた直江は、そのまま高耶の髪を梳きながら体を寄せた。
「機嫌直して・・・、もしかして嫌だったんですか?」
「!!」
耳元でいつもより低めの声で囁かれた高耶はビクンッと大きく体を揺らした。
それを見た直江は気を良くして高耶の髪から耳、項へと指先をゆっくりと移動させながら尚も囁く。
「嫌だったならはっきりと言ってくださればいいものを・・・。あぁ、貴方は優しいですからねぇ。嫌とは言えなかったんですね」
言ってる事とは裏腹に直江の手は高耶の首から肩へと移動している。
高耶は無視を決め込んでいるが体は直江の手の動きに合わせて反応する。
「あぁ・・・こんな所に跡がついてしまってますねぇ・・・ほら、ここにも・・・」
赤い刻印を指で辿りながら直江の手は肩から背中、腰へと下がっていき、もっと下へと手を伸ばす・・・
「だぁ〜!!もうっ!なんでお前はいつもそうなんだよっ!」
耐え切れなくなった高耶がガバッと布団を剥いで直江の方へと体を向けて怒鳴った。
「高耶さん・・・」
一瞬驚いた顔をした直江だったが高耶の体を見た途端、苦笑しながら高耶の名を呼んだ。
「・・・何だよ」
「嫌だと言ってる割には元気ですね」
「はぁ?何が言いたい・・・」
ムッとした高耶に、笑顔のまま直江は高耶の耳元でそっと囁いた。
「あれだけシタのに・・・すっかり元気になったようですねぇ」
「えっ?あぁっ?!・・・わぁっ!!」
自分の体を見て直江の言葉を理解した高耶は、慌てて布団を被ったが直江がすぐ横にいた為に一緒に布団の中に入ってしまう形となってしまった。
起きたばかりの高耶には当然の事ながら寝起きに起こる生理現象がきっちりと起こっていただけで別に問題はない筈だが・・・
(コイツの手とあの声聞くとなぁ・・・ついそっちかと思っちまうじゃねぇか!)
必死に顔を隠そうとしているが一緒に布団に入っている以上隠れる所はない。
真っ赤になった顔でゆっくりと直江の顔を見上げると、直江は高耶の上に覆い被さりながら顔をゆっくりと近づけていく。
「高耶さん、何を考えていたんです?そんなに赤くなって・・・」
「いっ・・・べ、別に・・・何も!」
(欲情しそうだったなんて死んでも言えるかよっ!)
必死に平然を装い、そっぽを向いた高耶に直江は微笑しながら頬に手をやりこちらに向けた。
「可愛い人だ・・・。そんな貴方を見ているとこっちも我慢が出来なくなる・・・」
「・・・なお・・・え・・・」
高耶は直江の鳶色の瞳を見詰めたまま動けなくなる。
すると直江がゆっくりと顔を近づけてくる。この後の展開が読める高耶はそっと瞳を閉じ直江を待った。
Piriiiii・・・・
「っ?!」
「・・・・・・」
互いの唇まで後1cmという所で突然電話が鳴り、2人は暫し見詰め合った。
「・・・・直江」
「はい・・・・」
「電話・・・・」
「・・・・・そのようですね」
直江は身を起こしベッドから下り電話を取りに行こうとしたがふっと高耶を振り返り、ベッドに片足を乗せて覆い被さる。
「夜は出掛ける予定なんですから早く起きてくださいね。続きは帰ってから・・・ね」
言い終わった途端に直江は軽く啄ばむように高耶の唇を奪い、さっさと電話を取りに行った。
「あ・・・の野郎っ!」
不意打ちの口付けに呆然となっていた高耶は我に返った途端顔を赤くして、行き場のない感情をぶつけるように枕に突っ伏した。
(あんにゃろ〜!好き勝手しやがてぇ〜!!)
暫く布団の中で一人悶えていた高耶だが、出掛けると言っていた直江の言葉を思い出しのっそりとベッドから起き上がった。
背景(C)Salon de Ruby
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